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この作品は、『変身中(クリスマス編)』の後日談になります。







Books Nigeuma 10万HIT記念SS

MOBILE GIRL


企画・原案 ファイターGT 

作:逃げ馬




「ア〜ッ・・・まただよ・・・!」
机の上に置かれたThink Padのディスプレイを見ながら、新谷正孝は大きなため息をついた。
傍らに置かれたペットボトルのドリンクをゴクッと飲むと、手早くキーボードをタイプする。
「まったく・・・『変身シーンのないTSFは、気の抜けたビールみたいなものでしょ』・・・っと・・・」
正孝は掲示板に感想を書き込むと、もう一度ドリンクを飲んだ。
ペットボトルの栓を閉めながら、
「どうして変身シーンをカットしてしまうのかなあ・・・?」
掲載された小説のストーリーにに満足ができず、頬を膨らませてブツブツと文句を言っていると、
「そんなに・・・女の子になりたいの?」
「それは、まあ・・・って?!」
驚いて後ろを振り返る正孝。
黒いスカートスーツと、ショートカットの髪。20歳くらいに見える美女がベッドに腰掛け、正孝を見ながらクスクスと笑っている。
「君は誰だよ?」
「わたし・・・?」
正孝の問いに、彼女は微笑みで応えた。
「・・・わたしが誰か、あなたは知っているくせに・・・」
「俺が知っている?・・・そうか、あいつの“使者”かよ・・・」
「あなたがあの“ゲーム”を逃げ切ったでしょう? その御褒美を渡しに来たの・・・」
「“御褒美”だって?」
「そう、御褒美・・・」
彼女が微笑みを浮かべた瞬間、正孝の視界を眩い閃光が包んだ。
思わず目を閉じた正孝は、そのまま意識を失ってしまった・・・。



「ウ・・・ウウッ・・・」
正孝が軽く首を振り、右手で首筋を数回叩いた。
辺りを見回すと、
「・・・エッ・・・?」
正孝は椅子に座っているようだ。彼の前には2本のレバーと、たくさんのスイッチがついたパネルがある。
「何なんだよ・・・これは? エ〜ッと・・・」
正孝は、パネルに付けられた大きめのスイッチをONの位置に回した。
突然、パネルのスイッチやディスプレイに明かりが点り始め、目の前の“エンジン出力”を示すゲージが上がっていく。
だが、真正面の大きなスクリーンには何も映らない。
「なぜだ・・・?」
正孝はパネルを見回す。
『カメラ』と書かれたボタンを見つけてスイッチを入れると、
「なんだこりゃ?!」
そこに映ったのは、真っ白に塗られた、どこかの部屋の天井だったのだ。
しばらく画面を見つめていた正孝だったが、画面は天井の一点を映したまま全く変わらない。
「どうなっているんだ?」
戸惑っていた正孝だったが、左右に付けられたレバーに視線が止まった。
両手をレバーの上に置き、右のレバーを動かした。
「?!」
画面が動くと同時に、正孝のいる空間が動いたように感じた。
画面には薬品の並んだ棚や机が映っている。
「・・・医務室か?」
しばらくの間、ぼんやりと映し出される画面を見ていたが、
「・・・とにかく・・・動け!」
レバーを動かし、足でペダルを踏み込む。
目の前のモニター画面の景色が動く。どうやら上体を起こしたようだ。レバーを動かすと、画面が動く、ちょうど上から見下ろした形だが・・・。
「・・・なんだ?!」
画面には人の体の胸から下が映っている。しかし・・・。
「なんだよ・・・これ?」
“彼は”ブレザーの制服を着ているようだ。
だがなぜ、柔らかい肌触りのブラウスを着て、胸元には可愛らしいリボンタイがあるのだ?
そして何より、来ているブレザーを下から押し上げているふくらみは何なのだ?
スクリーンを見ながらレバーを操作しながら両手を胸元に持っていく。
その手も自分の手とはまるで異なる色白の小さな手だ。
その手がブレザーのボタンを外し、ブラウスの胸の膨らみに掌を・・・。
「なんだ?!」
思わずレバーから手を離す正孝、モニターに映る両手が下がる。
モニターに映る両手が胸に触れた瞬間、正孝は自分の胸が触られたように感じたのだ。
「・・・どうなっているんだよ?!」
自分の胸と両手を見下ろしながら、正孝が戸惑っていると、
「ハ〜〜〜〜イ!」
サブ・モニターに黒いスーツを着たあの女性が映った。 思わず、ムッとした顔になる正孝。
「何が、“ハ〜〜〜〜イ”だよ。なぜ俺をこんなところに・・・」
「だって、あなたは女の子になりたかったのでしょう? あなたはそこから、その娘を操縦できるのよ」
「・・・操縦って・・・(^^;」
「それに、その娘の感覚は、コクピットに座っているあなたにそのまま伝わる・・・すごいでしょう? 男なのに女の子の感覚が味わえるのよ」
悪戯っぽくほほ笑む女性。
「少しもすごくないよ! 俺をここから・・・」
「必要な情報は、連動をしているコンピュータからディスプレイに表示されるわ。 それじゃあ、きょう一日、女の子を楽しんでね」
バイバイ・・・と、手を振りながら彼女はモニターから姿を消した。
思わず大きなため息をつく正孝。
「なんだかとんでもないことに、なっちまったなあ・・・」
視線をメインディスプレイに戻す正孝。 相変わらず保健室らしい風景が映っている。
「とにかく・・・」
ペダルを踏み、レバーを動かす。
インジケーターの光が強くなり、耳に聞き取れなかったほどの音が、だんだん大きくなってくる。
ゆらっと揺れるような感覚があり、モニターに映る風景が動き出す。
それと同時に、正孝の太ももには肌とベッドのシーツがこすれるような感覚が感じられた。
モニターには、ベッドに腰掛け、太ももの中ほどまでの長さのプリーツスカートと白い太ももと、細く引き締まった足。その足を紺色のハイソックスが引き締め、ローファーの革靴を履いている。
「・・・マジかよ・・・」
今日何度目になるだろう、正孝は頭を抱え、ため息をついた。
その時、

「孝美! 大丈夫?!」 
突然ドアが開き、誰かが入ってきた。 正孝はとっさにレバーを操作して顔を右に向けた。
女の子が“正孝”の顔を覗き込むように見ている。
「顔色がいいじゃない? もう大丈夫ね!」
モニターに彼女の“データ”が表示された。 

石川由紀子。
城南大学付属高校2年生。
“孝美”の親友。



「なるほど・・・」
苦笑いしながら思わず正孝は呟いていた。 これがあの女性の言う“必要な情報”なのだろう。
正孝は頭に着けていたヘッドセットのマイクを口元に持っていくと、
「ありがとう」
一言言ってみた。それに合わせて“孝美”の口が動き、顔にはかわいらしい微笑みを浮かべる。
もちろん、“彼女”の口から出てくるのは可愛らしい女の子の声だ。
由紀子は小さく頷くと、
「さあ、授業に戻ろう!」
彼女の手をとり、二人は教室に戻って行った。



「ハア〜〜〜〜ッ…なんで、授業はこんなに退屈なんだろう?」
モニター画面には、学校の授業風景が映っている。
進学校らしい、レベルの高い授業だが、今の正孝には退屈でしかたがない。
やがて、チャイムの音が聞こえ廊下がザワザワとにぎやかになってきた。
「はい、では今日の授業はここまでということで・・・」
先生が言うと、規律・礼と、一連のおなじみの風景がモニターに映る。
正孝は何もしていないのに、この“機体”のコンピュータはよくプログラミングされているのだろうか? 勝手に反応をしてくれて、あわてずに済んで助かった。
座席に座る“孝美”に、由紀子が近寄ってきた。
「孝美・・・さあ、行こう!」
「行こうって・・・どこに?」
「どこにって・・・?」
由紀子が呆れたように“孝美”=正孝を見つめている。
「次は体育でしょう? 遅れても知らないわよ!」
そういうと同時に、彼女は孝美の手を握り引き鶴用に教室を出て行った。



「ちょっとここは・・・?」
“孝美”=正孝が立ち止まる。
「ここはって・・・更衣室でしょう?」
由紀子が『当然でしょう?』という表情で“彼女”を見ている。
そう、正孝は今、男性ならば“一度は入ってみたい”と思ったであろう? 女子更衣室の前で立ち尽くしていた。
サブモニターに、またあの女性が映った。
「どうしたの? 入らないと着替えられないでしょう?」
正孝をからかうように、悪戯っぽい笑みを浮かべながら言った。
「そんなこと言っても、男の俺が・・・」
「今、あなたは女の子の体に入っているのよ・・・忘れたの?」
「あっ・・・そうだった・・・」
そうとわかれば、彼も決断は速い。
「行こう!」
そう言うと、ドアを開けて由紀子と一緒に更衣室の中に入ったのだが・・・。
「?!」
“孝美”の視野には、着替えをしている女の子たちが見えているはずだ。
しかし、正孝の見ているメインディスプレイには、ロッカーや床、天井、窓以外、人がいるであろう空間にはモザイクがかかっている。
「チッ!」
思わず舌打ちをする正孝に、
「残念でした!」
通信モニター画面の中で、あの女性が笑っていた。
由紀子と“孝美”は、隣同士のロッカーで着替えを始めた。ブレザーを脱ぎ、スカートのホックとファスナーを外すと、スカートは両足に沿ってストンと床に落ちる。
“学習コンピュータ”のデータのおかげで何とか服をたたみ、バッグから体操服を出そうとしたのだが・・・。
「・・・」
中から出てきたのは、袖に紺色のラインの入った体操服と紺色のブルマだった。
『こんなの着るのかよ・・・』
そう思いながら立ちつくす正孝に、
「ほら、さっさと着る!!」
由紀子が強引に“孝美”に体操服を着せていく。
ブルマが丸いお尻にピッタリとフィットする感覚、健康的な太ももと細く引き締まった足、体操服に現れる女性らしいライン。
それが、正孝に“自分の感覚”としてフィードバックされる。
正孝は自分が男性なのか、それとも女性なのか・・・自分を見失いそうな錯覚に襲われていた。
「さあ、行こう!」
由紀子は明るく言うと、“孝美”=正孝の手を引いて体育館に急いだ。



体育館では、男女それぞれ分かれてバスケットボールが行われていた。
「孝美、行ったわよ!」
誰かの声が聞こえて、“コクピット”に座る正孝がレバーを操作してボールを取ろうとしたが、駆け寄ってきた女の子が素早くボールを奪うと、ドリブルをしながら見事にシュートを決めた。
「クソッ!!」
正孝の負けん気に火がついた。
“孝美”が唇をかみしめる。
またプレーが始まった。
由紀子が手にしたボールを“孝美”にパスをする。
“コクピット”で正孝がレバーを操作し、ペダルを踏み込む。
“孝美”は巧みにドリブルをしながらコートを走る。
『体が軽い・・・』
コクピットで正孝は、そう感じていた。
「孝美!!」
由紀子が悲鳴のような声で叫ぶ。
はっとしてモニターに視線を戻すと、背の高い女の子が二人、彼の行く手をふさいでいた。
正孝の・・・そして“孝美”の顔に微笑が浮かんだ。
ドリブルをしながら二人と対峙する“孝美”、その周りに敵も味方も駆け寄ろうとした。


「ザ○とは違うのだよ、ザ○とは!!」


どこかで聞いたセリフを正孝はコクピットで叫んだ。 それと同時にレバーを素早く動かし、ペダルを踏み込む。
“孝美”は、ドリブルをしながら体をかがめるように二人の間を抜けた。 彼女とゴールとの間に遮る人はいない。
コクピットに座る正孝は、素早く“照準器”をセットした。


「いただき!!」



叫ぶと同時にボタンを押す。 もちろん、“ビーム”が出るわけではない。
ボールは見事にゴールのリングの中を通り抜けていた。
「孝美、すごいよ!!」
みんなが集まってくる。
コクピットに座る正孝の顔にも微笑みが浮かぶ、もちろん、“孝美”にも。

そんな光景を、隣のコートから見る視線があることに、この時正孝は気がつかなかった・・・。



放課後、一日の授業が終わると、みんなは部活に、あるいは塾へそれぞれ教室を後にしている。
「フウ〜〜〜ッ・・・」
大きなため息をつきながら、“孝美”=正孝は、かばんに教科書やノートを入れていた。
『しかし・・・妙にこの体に慣れてしまったようで、ちょっといやだな・・・』
そう思いながら、改めて自分の体を見下ろす“孝美”=正孝。
今の“彼”は、どこから見ても女子高校生なのだ。
そして、正孝自身、自分が“孝美”なのか、正孝なのか・・・自分で意識をしていないと分からなくなりそうなのだ。
「とにかく、きょう一日過ごせば戻れるんだ・・・帰ろう!」
かばんを手に、教室の扉に向かったのだが・・・。
「?!」
ブレザー姿の男子高校生が立っていた。
「・・・孝美・・?」
「・・・?」
『誰なんだ・・・』
そう思いながら、コクピットでモニターを見つめる正孝。
ディスプレイに情報が表示された。

長谷川俊彦
城南大学付属高校2年生。
バスケットボール部のエース
成績優秀、生徒会副会長
孝美のあこがれの男性


『あこがれの男性?!』
驚きの表情でモニターを見る正孝。
しかし、“孝美”は、じっと俊彦を見つめているだけだ。
『これはまずい!』
そう思った正孝の耳に、警報音が聞こえてきた。
「何だ?!」
リアクターの温度が上がり、暴走寸前だ。
「この状況は、まずい、奴から離れないと!!」
正孝はペダルを踏み、レバーを操作するのだが、“孝美”は、彼を見つめたまま身動きができない。
その時、俊彦の手が“孝美”の両肩にかかった。

「駄目だ、緊急離脱!!」

正孝は必死にレバーを操作するのだが、“孝美”は俊彦を見つめたまま立ちつくしている。
しかも、その間にもコクピットの警報ランプが増えていく。

操縦系統,、オーバーロード

メインコンピューター・オーバーロード

リアクター温度・上限値オーバー、制御不能

「駄目だ、脱出!!」

正孝は、脱出装置と書かれたレバーを引いたのだが・・・。
「?!」
全く反応がない。
サブモニターに、あの女性が映った。
「これ、壊れてるじゃないか! たすけてくれよ!」
彼女は、微笑みながら、
「ごめんなさい、その状況から回避する能力は、彼女にはないの・・・でも、無駄じゃないわよ」
「無駄じゃないって・・・何が?!」
怒鳴るように正孝が言った。
コクピットの照明が落ち、赤い非常灯がともり、あちこちからスパークの火花が飛び散っている。
「あなたは、身も心も“孝美”と一緒になれるのだから・・・」
「そんな?!」
正孝は絶望感に襲われながらモニターに視線を戻した、俊彦の顔が、だんだんアップになってくる。
コクピットは耐えられないほど熱くなり、あちこちから煙が噴き出し、火花が散っている。
「そんな・・・俺が、彼女と一緒に・・・?!」

正孝が叫び声をあげた瞬間、コクピットは真っ暗になった・・・。



俊彦と孝美が、並んで校門を出ていく。
俊彦が微笑む、そんな俊彦を見て孝美も幸せそうに微笑んだ。
そんな二人を、校舎の屋上から、あの女性が見つめている。 
彼女は満足そうに頷くと、やがて光に包まれその姿を消した。






MOBILE GIRL
(おわり)


作者の逃げ馬です。

おかげさまでこのホームページも、皆さんのおかげで10万HITを達成することができました。
いつも応援を頂きまして、ありがとうございます。

この作品は、もともとはファイターGTさんが掲示板で「こんなのを読みたい」とリクエストしてくれた時の“お題”を基に作った作品です。
変身シーンと同じくらい戦闘シーンが好きなファイターさんに敬意を表して、ちょっとそれっぽいシーンを入れたり、あのアニメのセリフもオマージュとして入れてみました。
リクエストをいただいて、作者としては『反応がある』ということで気持ちに張りもできますし、“お題”を自分でどうこなしていくか・・・なかなか楽しかったですよ(^^)
読んでいただいた皆さんは、いかがだったでしょうか?

今は、もう一つリクエストをいただいた“お題”に挑戦をしています。
よろしければ、またお付き合いください。

それでは、今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
また、次回作でお会いしましょう!




2011年10月
逃げ馬








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