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井上は、花壇を右側に回った。
その後を二人の女の子が追うが・・・。

「やはり・・・」

そうだったか・・・井上は思った。胸騒ぎの原因は、これだったのか・・・。
円形の花壇を挟んで向こう側を、あの少女が走っている。
井上は巧みなコーナリングで、円形の花壇の周りを駆け抜けた。
赤い煉瓦造りの学校の正門を目指して走る。
その後ろを三人の女の子が追う。
しかし井上との差が、しだいに開いて行く。
赤い煉瓦造りの学校の正門が目の前に迫る。
後ろを振り返る。
大丈夫・・・「彼女達」は追いつけない。
井上は、門をくぐると振り返り、夜空に拳を突き上げて叫んだ。
「逃げきったぞ!」
次の瞬間、井上の視界が揺れ、意識が遠のいていった・・・。



耳のそばで電子音が鳴っている。
布団の中から腕を伸ばしてスイッチを切った。
伸びた腕は、布団の中に戻ったが・・・しばらくすると、中から青年が起き上がった。

井上秀明は、起き上がると、腕や肩をまわし、体の筋肉をほぐした。
昨日は、そんなにきつい練習をしたかな・・・いや、それよりも、昨日の出来事を思い出せない?
一昨日の事は思い出せるのに?
昨日も酒を飲んだのかな?・・・いつも先輩や同期生との酒盛りに引っ張り出されるからな・・・特にあの三人は・・・。
名前を思い出そうとしたその瞬間、井上の記憶の中から、『その三人の名前』が溶けるように消えていった。
井上は首を傾げた・・・やはり飲み過ぎたのかな?
そういえば、今日は何かをしなければいけなかったな・・・大事な・・・。
思い出そうとした『大事な事』・・・井上は頭の中に、甘く心地よいしびれを感じると、思い出そうとしていた『大事な事』は、溶けるように消えていった・・・。
井上は立ち上がると、身支度を始めた・・・大事な事・・・まあ、そのうちに思い出すだろう・・・今日も朝練・・・強豪校・・・剛気体育大学 陸上部の練習には休みはない・・・。
今日もとにかく練習だ。

井上秀明は、夏の朝の空気を吸いながら、大学に向かって歩いて行く。
大学陸上部の合宿所から大学までは、歩いて五分ほど…その途中には、名門の女子校がある。
今朝も、大学生や小学生。その小学生の登校を中学生の「お姉さん」が、優しく見守っている。
井上は純愛女子学園の正門の前に立った。
「大事な事・・・此処で・・・」
何かが・・・?
思い出そうとするのだが、思い出す事ができない。
登校途中の女子大学生や高校生達が、井上を不思議そうに見つめている。
井上は、苦笑しながら会釈をすると、剛気体育大学に向かって歩き出した。

前から三人の女子高校生が、楽しそうにお喋りをしながら歩いてくる。
黒髪をツインテールに纏めた女の子と、テニスのラケットケースを持った女の子、そして、二人の話を聞きながら、楽しそうに笑っている女の子・・・。
「彼女達・・・」
井上は、彼女達の姿に見覚えがあった。
彼女達は純愛女子学園高校の女子高校生、自分は大学生なのに?
どこで会ったのだろう・・・?
井上は、彼女達に会釈をした。
彼女達も会釈を返す。
一人と三人は、すれ違った。

「さて・・・」
今日も頑張ろう・・・井上は、気持ちも新たに大学に向かって歩いて行く。







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