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トランスかくれんぼ
(第3話)

作:逃げ馬




「・・・・・?!」
僕は携帯電話を耳から話した。
根岸が僕の顔を覗き込んでいる。
「どうした?」
「いや・・・」
僕は視線をそらしながら、
「・・・・電話が切れたんだ・・・・」
「エッ?」
それって・・・そう言うと、根岸はあたりを見回した。
「小川さんも・・・・女にされたのか?」
僕は答えに詰まった。
電話から聞こえた小川さんの叫び声。
電話越しに聞こえるその叫び声は、いつの間にか女性の声に変わっていた。
そして『岩原には近づくなよ』という叫び。
小川先輩は、女の子にされてしまった岩原先輩を心配して声をかけた。
その岩原先輩に女の子にされてしまったのだろうか?
僕は唇を噛みしめながら廊下を歩き始めた。
根岸も僕の後をついてくる。
その時、

「来た!!」

廊下の向こうに、岩原先輩を女の子にしたあの少女が現れた。

「逃げろ!!」

叫ぶと同時に僕と根岸は誰もいない廊下を走り出した。
振り返ると、やはりあの少女は僕たちを追いかけてくる。

「なんだ・・・・あいつ?!」

速い!・・・根岸が叫ぶ。
体育大学で鍛え上げた男二人を高校の制服姿の美少女が、スカートの裾を翻しながら追いつめていく。
二人は廊下の角を曲がると、教室のドアを開けた。
真っ暗な教室の中には、廊下の蛍光灯の明かりに照らされた机と椅子が整然と並んでる。
僕たち二人は、教室に転がり込むと同時にドアを閉めた。
根岸は暗闇の中を走り、教卓の陰に隠れた。
僕は閉めたドアを背に、まるでドアを押さえつけるように立っていた。
走ったために荒くなりそうな呼吸を抑え込み、聞き耳を立てる。
廊下に人の気配がする。
心臓の鼓動が高まる。

少女は閉まった教室のドアを見つめていた。
やがて、その顔に微笑みを浮かべると、静かに歩き去って行った。

ドアの向こうの人の気配が消えた。
僕は大きなため息をつくと、その場に崩れるように座り込んだ。 



少女は誰もいない校舎の廊下を歩いている。
蛍光灯の青白い光が、彼女を照らしている。
彼女はガラス窓に近寄っていった。
そこからは、校舎の外にある礼拝堂が見える。
彼女は腕時計に視線を落とすと、文字盤を見てその顔に微笑みを浮かべた。
そして、その視線を再び礼拝堂に向けると、彼女は右手を高々と上げ、そして礼拝堂に向かって右手を向けた。
次の瞬間、右手から強烈な光が放たれた。

少女から放たれた光が、礼拝堂の前に集まる。
その光が消えた後には、銀色の金属製の大きな“箱”が、月に照らされて輝いていた。
そして誰もいない校舎の入り口では、軽い音が響き、ガラス扉がスッと開き、校舎の中に夜の空気が流れ込んできた。


「?!」
教室に隠れていた僕と根岸は、突然音が流れたスピーカーを驚いて見上げた。
「お知らせします・・・」
スピーカーから流れてきたのは、あの少女の声だ。
「礼拝堂の入り口に、解除装置”を設置しました・・・・・」
「解除装置・・・・?」
僕と根岸が、暗い教室の中でお互いの顔を見合わせた。
スピーカーからは、あの少女の声が聞こえる・・・「残り20分までに、この解除装置のボタンを押すと、女の子になったあなたたちの仲間は、元の男性に戻ります。既に、校舎のドアは開きました・・・・・学校全体を逃げることができます・・・・」
「だけど・・・・」
根岸が呟く。
「・・・俺達が行く場所が分かっているわけだから、待ち伏せされちまうじゃないか・・・・?!」
「わたし達は、待ち伏せなんてしない・・・・・」
まるで根岸のつぶやきが聞こえたように、スピーカーからは、あの少女の声が聞こえた。
「わたしたちは、校内全域を探す・・・・・待ち伏せなどという卑怯なまねはしないわ・・・・・」
それよりも・・・・スピーカーからの声は、少し笑いを含んでいる。
「校舎の外へ出ることができるから、校門を出て逃げることもできるわよ・・・・」
そうなると、彼女たちは女子高校生のままだけどね・・・少女の声に、思わず僕は叫んだ。
「そんな卑怯なまね、するかっ?!」
「じゃあ、決まりね・・・・・」
参加をするか、しないかは、あなたたちの自由・・・・そう言うと、放送は終わった。
「クソッ!」
僕は吐き捨てるように言うと、根岸に視線を向けた。
根岸も僕を見ていた・・・・その額には、緊張のためか汗が光っている。
自分ではわからないが、僕もおそらく同じようなものだろう。
根岸が小さく頷いた。
僕も頷き、姿勢を変えると息を殺して教室のドアに耳を当てた。
自分の心臓の鼓動が分かるほどだ。
しかし・・・廊下には、人の気配はない。
僕は根岸に目配せをした。
根岸がドアを開けると、左右に視線を走らせる。安全を確認すると、僕に向かって頷いた。
僕も立ち上がると、根岸と一緒に廊下に出た。
暗い教室にいたためか、蛍光灯の光が眩しい。

僕たちは辺りを警戒しながら、夜の礼拝堂を目指した。

先輩たちを、助け出すために・・・・。



トランスかくれんぼ
(第3話)

おわり





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