学校の聖母

 

:逃げ馬

 




 僕は、中谷光彦。高校1年生だ。
 僕の通っている「純愛学園高校」は、去年までは女子高だった。しかし、少子化も進んでいるため、理事長が交代したのをきっかけに、生徒を確保するために今年から共学にする事にしたそうだ。

 ところは変わって、新学期前の学園の会議室・・・。
 「共学にするのを・・・止めろだって?!」
 理事長が、声を荒げた。
 「ハイ・・・そうしていただく方が、学校のためかと・・・。」

 女性教師の一人、家庭科の小島先生が言った。・・・彼女はもう定年間近、今、この学校にいる教員の中では、一番勤続年数が長い。
 「なにを馬鹿な・・・なぜ共学に反対なんだ!」
 校長が教師に向かって叫んだ。
 「この学校の伝説をご存知ですか? “乙女に危機が迫る時、聖母が現れて乙女を救う“・・・建学以来、男子学生どころか、教員や職員すら女性しか受け入れてこなかったこの学校が、男子生徒を受け入れるなんて・・・。」
 「馬鹿な事を言うな!くだらん!!」
 教頭が被せるように言った。
 「もう決まった事だ!いいな!今年度から男子学生を受け入れて共学にするのは決まった事なんだ。いまさら変更は出来ない。」
 理事長の言葉に、その女性教師は、
 「どうなっても・・・知りませんよ・・・。」
 そういい残して、会議室を出て行った。

 僕は、その日も、いつものように授業を受けていた。その時間は数学の授業だった。
 「おい!山田!」
 数学の担当であり、担任の矢沢先生が、呆れたように言った。山田は、机にもたれたまま眠っている。クラスメイト達が、クスクスと笑い出した。
 「おい・・・山田・・・。」
 僕は、山田の椅子を突付いた。

 「・・・ハイ!!・・・。」
 突然、山田が立ち上がった。顔には、机にあたっていた部分が、赤くあとを付けている。みんなが一斉に笑い出した。
 「おまえなあ・・・。」
 “ゴリラ”と言われるほどのがっしりした体格の矢沢先生が、呆れて山田を見つめている。山田は、頭を掻きながら笑っている。
 「おまえなあ・・・居眠りもいいかげんにしろよ!」
 そういうと、先生は苦笑しながら授業に戻った。


 翌日、僕は、学校に向かって歩いていた。
 「中谷君!」
 後から僕を呼ぶ声がした。振り返ると、矢沢先生が歩いてきた。セミロングの髪に、黄色のスーツ、タイトスカートから伸びる綺麗な足。胸の辺りは、ふっくらと膨らんでいた。
 「おはよう!」

 先生が僕に向かって言った。
 「あ・・・お・・・おはようございます!」
 僕は、慌てて挨拶をした。
 「フフフ・・・早く行かないと遅刻するわよ!」
 先生は、そういうと、飛び切りの笑顔をして歩いて行った。僕は、呆然として彼女を見送っていた。
 
 学校に着くと、僕は教室に向かって廊下を歩いていた。
 「おはよう!」
 先生達とすれ違った・・・なんだか、違和感を感じる。
 「あれ・・・あんな美人の先生いたかなあ・・・。」
 しばらく考えると、先生の名前が頭に浮かんできた。
 「うーん・・・。」
 「おはよう!」
 「あ・・・おはようございます。」
 また、女性の先生とすれ違った。
 「おかしいなあ・・・こんなに女の先生ばかり・・・。」
 僕は、独り言を言いながら廊下を教室に向かった。少し考えて思い当たった・・・。
 「そういえば、うちは元女子高だから、理事長から教師までみんな女だっけ!」
 僕は、教室に入った。しかし、何かがおかしい・・・。
 「おはよう!」
 「おう!中谷!おはよう!!」
 みんなが挨拶をしてくれた。僕が、席に着くと矢沢先生が教室に入ってきた。
 「皆さん・・・おはようございます!」
 先生が、挨拶をした・・・いつもと変わらない風景だったが、僕は、なんだか違和感を感じていた。
 いつものように、数学の授業が進んでいった・・・先生が問題を黒板に書いていった。
 「じゃあ・・・この問題を・・・山田君!」
 先生が振り返った・・・長い髪が綺麗になびいた。山田は・・・いつものように居眠りをしていた。
 「おい!・・・山田!!」
 僕は、いつものように、山田の背中をつついた。
 「あ・・・は・・・はいっ!!」
 山田が慌てて立ち上がった。山田の座っていた椅子が、僕の机にあたって大きな音をたてた。みんなが、山田を見てクスクスと笑っている。先生は、呆れたような顔で言った。
 「山田君・・・また居眠りをしていたの?うーん・・・困ったわねえ・・・補習をするから、放課後に職員室に来てね。」
 山田が、バツの悪そうな顔をしている。右手で頭を掻いている。皆はそれを見て笑い出した。先生は、にっこりと微笑むと、また、黒板に向かった。


 翌日・・・僕は、いつものように学校に向かっていた。
 「中谷君、おはよう!」
 矢沢先生が、僕の横を歩いている。化粧の香りが僕の鼻をくすぐった。
 先生はにっこり笑って、僕を追い越していった・・・。
 「中谷君、おはよう!」
 僕の高校の女子の制服・・・ブレザー姿の女子が走って来た。ショートカットの髪、細い体、綺麗に伸びた白い足には、紺色のハイソックスを穿いている。
 「おはよう!」
 「ああ・・・おはよう・・・。」
 誰だったかなあ・・・僕は、必死に思い出そうとしていた。
 「どうしたの?」
 彼女が、にっこり笑って僕の顔を覗き込んだ。
 「いや・・・君は誰・・・。」
 「いやだなあ・・・なにとぼけているの?」
 彼女が笑い出した。
 「前の席に座っている人間を忘れないでよ・・・山田でしょう。」
 彼女は笑った・・・僕も頭の中で彼女のことを思い出した。
 「ああ・・・悪かったね・・・。」
 彼女は、にっこり笑って頷いた。
 「早く行かないと、遅刻するよ!」
 そう言うと、彼女はくるっと回って学校に向かって走り出した。回った拍子に、ブルーのチェックのプリーツスカートがふわっと広がった・・・彼女の綺麗な足が僕の目に飛び込んできた。
 驚く僕を、彼女は、にっこり笑って見つめると学校に向かって走っていった。

 学校に着いた・・・校門をくぐると、やけに女子生徒の姿が目立った・・・。
 「こんなに・・・女の子がいたかなあ・・・。」
 僕は、なんとも言いようの無い違和感を感じていた・・・。
 教室に入ると、また驚いてしまった・・・教室の3分の2を、ブレザーを着た女子生徒が占めていたのだ・・・。
 「あっ・・・中谷君、おはよう!」
 女の子達が声をかけてきた。
 「ああ・・・おはよう!」
 僕は答えた。女の子達は、明るい笑顔でみんなとおしゃべりをしている。その光景を見ながら、僕は自分の席に座った。前には、山田が座っている。そのブレザー姿の背中と、サラサラのショートカットの髪を見ていると、僕は不思議な気がしていた。
 矢沢先生が入ってきた。いつものように出席をとっていく・・・女子の人数が多いのが気になったが、記憶の中では、何もおかしいところが無い。「もともと、この学校は女子高だったのだから。」という結論になってしまう。
 いつものように、一日が始まった・・・。
 
 「おい!中谷!ちょっと来いよ!」
 昼休みに、僕は、クラスでもワルと言われている、高橋に呼び出された。
 「なんだよ・・・。」
 僕は、高橋に、校舎の屋上に連れてこられた。
 「おまえ・・・この学校・・・何かおかしいと思わないか?」
 髪を赤く染めた、長身で厳つい顔の高橋が、僕に向かって言った。
 「なぜだ?」
 僕が尋ねると、高橋は言った。
 「だいたい・・・共学なのに、俺達のクラスは、3分の2が女子だぞ!確かに、記憶にはおかしいところは無いけどな・・・それに俺は昨日の夜、見たんだ。」
 「なにを?」
 「学校の礼拝堂に、たくさんの男子生徒が入っていくところを・・・いいか?たくさんの“男子生徒”だぞ!誰だか思い出せないんだけどな・・・その男子生徒たちは、いったいどこに行ったんだ?」
 高橋が一気に言った。
 「俺は・・・今夜、礼拝堂に行ってみる。帰ってこなかったら、探しに来てくれ。」
 「なぜ、僕に?」
 高橋は、笑いながら言った。
 「おまえ・・・おとなしいやつだけど、意外に根性が座っているからな。何よりも、俺を全く怖がらない。俺だって友達が欲しかったしな・・・。」

 高橋が笑った。僕も笑った。2人の笑い声が、屋上に響いた。

 夜、高橋は、礼拝堂に向かった。礼拝堂には、煌々と明かりが点いていた。
 「ゴクッ」
 高橋は、喉を鳴らすと、ゆっくりと礼拝堂に近づいて行った。
 「・・・?」
 礼拝堂を覗くと、高橋は息を飲んだ。
 「これは・・・?」
 後に人の気配を感じた。高橋は、振り返った。
 「・・・おまえは?!」

 
 翌日、僕は、いつものように学校に向かっていた。
 「中谷君、おはよう!」
 ロングヘアーを靡かせながら、長身の女の子が走って来た。
 「ああ・・・おはよう・・・。」
 「元気?」
 彼女は、僕の左腕に腕を絡めてきた。僕の腕に、彼女の柔らかく、豊かな胸の膨らみが触れた。僕は、ドキッとした。
 「行きましょう!」
 彼女は、僕の顔を覗き込んでにっこり笑った。僕は、混乱している頭の中で、必死に記憶を探った。
 「君は・・・?」
 「もう!何言っているのよ!高橋でしょう。私は、高橋佳代!クラスメイトを忘れないでよね!!」
 彼女は、頬を膨らませて僕に言った。僕の記憶の中にも、彼女の事がよみがえってきた。
 「ああ・・・悪かったね!」
 「さあ・・・行こう!」
 彼女が、僕の腕を引っ張って行く。僕達は、学校の校門をくぐった。
 「ちょっと先に行ってね!」
 「どこに行くんだい?」
 「うん・・・礼拝堂に行って聖母様にお祈りしてくるの・・・。」
 「聖母様?」
 「そうよ!この学校の女の子は、みんなお祈りしているのよ・・・女の子である事の素晴らしさを与えてくれるんだから!」
 「じゃあ、先に教室に行っているね!」
 僕は、教室に向かった。彼女の事が気になる。記憶を探るが、どこにもおかしな事は無い・・・教室のドアを入ると、僕は驚いた。
 「これは・・・。」
 教室に中には、女の子達しかいなかった。
 「中谷君、おはよう!」
 女の子達が、声をかけてくる。僕は、入り口で呆然と立ち尽くしていた。
 「何してるの?中谷君?」
 後ろから、高橋が入ってきた。
 「あ・・・佳代!おはよう!」
 「おはよう!ねえねえ、昨日のスマスマ、見た?」
 高橋は、女の子達との話に入っていった。それを横目で見ながら、僕は席に座った。
 矢沢先生が入ってきた。いつものように授業が進んで行った。周りを見回した。教室の中に、男子は僕しかいない。記憶には何もおかしな事は無い。クラスで男子は僕一人だったという記憶しか・・・それが僕には、かえって恐ろしかった。いったいどうなっているんだ・・・。
 「中谷君!」
 矢沢先生の声に、僕は我に帰った。
 「ハイ!」
 「何、ボーッとしているの?成績は良くても、集中していないとすぐに成績は落ちるわよ!」
 先生は、そこで言葉を切ると、にっこりと笑った。
 「それとも・・・気になる可愛い女の子でもいるのかな?」
 「いえ・・・そういうわけでは!」
 僕は、慌てて先生に言った。

 「女の子は良いわよ・・・。」
 先生は、呟くように言った。
 「今日の放課後に、補習をします。職員室に来るようにね!」
 先生は、僕にそう言うと授業に戻った。


 放課後、僕は職員室に行った。矢沢先生が、僕を待っていた。
 「それじゃあ、始めましょうか?」
 僕は、矢沢先生と教室に行くと、数学の補習を始めた。先生と並んで座ると先生のふっくらと膨らんだ胸元や、タイトスカートから覗く綺麗な足に目が行ってしまう。
 「こら・・・どこを見ているの?」
 先生は、笑いながら僕の頭をこつんと叩いた。
 「どうもすいません・・・。」
 僕は、謝った。窓の外は、すっかり暗くなっている。
 「中谷君も・・・女の子だったら、こんな風になるわよ。」
 矢沢先生が、笑いながら言った。
 「そろそろね・・・中谷君、行くわよ。」
 「どこにですか?」
 「付いて来ればわかるわ。」
 先生が席を立った。僕も先生に付いて行く。先生は校舎を出ると、礼拝堂に向かって歩いて行く。僕は、胸騒ぎがしてきた。頭の中に、何かが引っ掛かる。
 『・・・その男子生徒たちはどこに行ったんだ・・・。』誰かの声が、頭に響いた・・・友達の声・・・いったいだれだったっけ・・・。
 僕の足が止まった。先生が振り替える。
 「どうしたの?」
 「いえ・・・補習が終わったのなら・・・そろそろ帰りたいのですが・・・。」
 僕は、おずおずと言った。
 「いいわよ・・・でも、帰る前に礼拝堂でお祈りをして帰ってね。」
 突然、礼拝堂の影から、山田と高橋が現れた。2人は、僕を挟むように左右に立った。
 「2人とも、どうしてここに。」
 「これから、聖母様にお祈りをするの。」
 山田が、にっこり笑って言った。
 「中谷君も行こう!」
 高橋が言うと、二人は僕の腕を掴んだ。僕は、反射的に振り払おうとしたが、二人は信じられないような力で腕をしっかりと掴んでいた。
 「中谷君も、これから素晴らしい人生が送れるわ!」
 矢沢先生が、にっこり笑いながら言った。
 僕は、3人に引きずられるように礼拝堂に連れて行かれた・・・。

 
 僕は、礼拝堂の中に連れてこられた。大きな礼拝堂の中には、全校生徒と、教職員が集まっていた。全て女性だった・・・男は、僕一人だ。僕は、言い知れない恐怖感がこみ上げてきた。
 「よく来たわね・・・。」
 家庭科の小島先生が僕の前に現れた。
 「先生・・・僕を家に帰して下さい!」
 僕は、恐怖感から叫んでいた。
 「・・・すぐに帰してあげるわよ・・・その前に、聖母様にお祈りしてね・・・。」
 小島先生は、僕の横に立った・・・山田と高橋も、僕の腕から手を放すと後ろを塞ぐように立っている。僕の前には、聖母像の前まで通路が広がり、その両横には、全校生徒と、教職員が立っている・・・何かがおかしい、しかし、いったい何が・・・僕は、掌に汗をじっとりとかいていた。後を見ると、矢沢先生と、高橋、そして山田が微笑みながら立っている。とても逃げられそうにはない。
 僕は、ゆっくりと聖母像の前に向かって歩いて行った。小島先生が、僕の横を一緒に歩いて行く。聖母像の前に立つと、矢沢先生が言った。
 「ひざまずいて、祈りなさい・・・。」
 僕は、仕方なく床に膝をつくと両手を合わせた。
 突然、聖母像が光った。僕は目が眩んで床に手をついて体を支えた。僕の腹に何かが当った・・・聖母像の腹部から僕の臍のあたりにチューブのようなものが繋がっていた。
 「なんだよ!これは!!」
 僕は、体を起こすとそれを引き千切ろうとした。しかし、チューブのようなものは、伸びるだけで、僕の腹からは外れなかった。
 「それは、聖母様の臍の緒よ・・・それを通じてあなたは生まれ変わっていくのよ・・・かつて・・・私がそうなったように・・・。」
 小島先生が呟くように言った。周りからは、祈りの声が聞こえる。周りにいる生徒達が、みんなで聖母像に祈っていた。
 僕の体がおかしい。胸がムズムズすると、突然ムクムクと膨らんでいく。
 「ああっ!」
 僕は、自分の胸に手をやった。『ムニュッ』と柔らかく豊かな膨らみが掌にあたる。
 ズボンのお尻のあたり窮屈になってきた。反対に、ウエストはブカブカになった。僕の腰に、まるで女の子のようなくびれが出来ていた。
 「うわーー!!」
 僕は、パニック状態になって叫んでいた。礼拝堂の中に響く祈りの声は、大きくなってきていた。
 「ああ・・・・あああっ!!」
 臍の緒を通じて、何か暖かいものが僕の体の隅々まで送られてきているようだ・・・僕は、だんだん恍惚としてきていた。
 サラサラの髪が、僕の耳にかかる。体は、だんだん小さくなっているようだ。僕の腕は、柔らかく細くなって行き、色は白くなっていく。
 突然、何かが僕の胸を締め付けた。下半身も、ピッタリとした下着が包んでいる。
 「ああ・・・そんな・・・!」
 叫んだ僕の声は、透き通るような高い声・・・これじゃあ、まるで女の子のよう・・・。
 「女の子・・・まさか!」
 僕は、ようやく気が付いた。この学校の男性・・・教職員も、今年入学した男子生徒たちも、全て女性になっていったのだ・・・そして、今、自分自身も・・・。
 「嫌だあっ!!」
 僕は、叫んだ・・・しかし、変化は納まらない。ズボンはいつのまにか、膝丈のブルーのチェックのプリーツスカートになっていた。白く綺麗な足が僕の目に飛び込んできた・・・それが今の自分の足だ。その足を、紺色のハイソックスが包んでいる。
 詰襟の学生服は、紺色の女子の制服、ブレザーに変わってしまった。胸のあたりは、ふっくらと膨らみ、その胸には、赤いリボンが結ばれている。カッターシャツは、柔らかい肌触りの白いブラウスに変わってしまった。
 
 変化は終わった。いつのまにか、臍の緒も消え去っていた。僕は、みんなと同じ、女子高校生の姿に変わってしまっていた。
 「お疲れ様・・・もう帰っていいわよ!」
 小島先生が笑顔で僕に言った。僕は、ボーッとした頭で家に向かって帰って行った。
 
 どこを、どう歩いたのかも覚えていない。気が付いたときには、僕は家に帰っていた。
 「ただいま・・・。」
 家のドアを開けて僕は、はっとした。この姿を、両親が見たらいったい・・・。
 「お帰りなさい!遅かったのね!」
 母親が、玄関に出てきた。
 「もう・・・礼香!女の子が帰ってくるのが遅くなるときには電話してね!心配するから!」
 「母さん・・・僕・・・。」
 「早く上がりなさい!ご飯が出来ているわよ!」
 母は、そう言うと台所に戻って行った。僕は、呆然とした。この姿を見ても、ごく自然だ・・・それに、“礼香”っていったい。
 僕は、自分の部屋に行ってみた。
 「これは・・・?」
 僕の部屋は、すっかり女の子の部屋になっていた。ベッドには、ぬいぐるみが、たんすを開けると、女の子の下着や、スカート、ワンピースやキャミソールが詰まっている。
 「そんな・・・僕は女の子に・・・。」
 今まで部屋に無かった姿見を見ると、ショートカットの小柄な女の子が映っていた。不安そうな目でこちらを見ている。
 「ウッ・・・。」
 僕の頭の中に、何かが入ってくる。僕の目に何かが映る。子供の頃からの思い出だった・・・しかし、何かが違う・・・男だったはずの僕が、女の子になっている。これはいったい・・・。
 「ああ・・・。」
 僕は、床に座り込んだ・・・スカートが広がり。足にフローリングの床の冷たさを感じた。
 僕はいったいどうなるんだ・・・僕?・・・わたしは女の子よ。僕だなんて・・・しかし僕は・・・わたしは・・・。
 僕の意識は、暗い闇に消えていった・・・。


 翌日、
 「礼香!おきなさい!」
 「ハーイ!!」
 わたしは、ベッドからおきると、シャワーを浴びた。白いきめの細かい肌の上を水滴が滑るように落ちていく。体の隅々まで綺麗に洗うと、わたしは体を拭いて、滑らかな肌触りの下着を身につけた。
 制服を着ると、朝食を食べて学校に向かった。
 「佳代!おはよう!」
 「あ・・礼香、おはよう!」
 高橋さんが答えた。
 「礼香!おはよう!」
 「あ・・・おはよう!」
 山田さんも追いついてきた。わたし達は、3人で校門をくぐった。
 校門には、『純愛女子学園高校』と書かれていた。
 
 こうして、学園の伝統は聖母によって守られたのだった・・・。






 こんにちは!逃げ馬です。
 この作品はお世話になったHIKUさんのHP、『HIKUの屋根裏部屋』が、15万HITを達成した時に寄贈したものです。
  本当は、もっと軽快な話を書いてみたかったのですが、このときにはネタがなくて・・・思いついたのは、ホラー・コメディーでした(^^;;;;;  HIKUさん、ごめんなさい!!
 
 2001年 7月 逃げ馬




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