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8月16日

沢木俊哉を目覚めさせたのは、今日もセミの鳴き声だった。
ベッドから起き上がり、軽く頭を振る。
時計の針は、7時を少し回ったところだ。
俊哉は部屋を出ると、階段を下りていく。
昨日と同じように、浴室に向かい、シャワーを浴びる。

浴室から聞こえてくる水音を聞きながら、俊哉の母親は、その顔に微笑みを浮かべた。
熱したフライパンにベーコンを敷き、卵を落とす。
皿の上には、新鮮なレタスやトマトを載せ、焼きあがったばかりのベーコンエッグを添える。
シャワーを浴びた俊哉が、台所にやってきた。
「おはよう!」
俊哉が明るい声で言った。
母親は、目を丸くした・・・・・毎朝、気の抜けたような声で、朝の挨拶をしていた俊哉が、自分から明るい声であいさつをした?
「おはよう」
朝ごはん、できているわよ・・・・・彼女は、テーブルの上にベーコンエッグとトーストの皿を置き、マグカップにコーヒーを入れた。
俊哉は椅子に座り、トーストを齧り、コーヒーを飲む。
彼の前に座る父親は、新聞越しに彼を見ながら、
「宿題は、進んでいるのか?」
父親は、新聞を見ながら尋ねた。
「うん・・・・・」
少しずつでもやっているよ・・・・・俊哉が答えた。
「クラスの女の子と一緒に、勉強しているみたいよ」
母親が言い添えると、父親は、
「ホォ〜〜〜〜ッ・・・・・」
意外だな・・・・・というような視線を俊哉に向けながら、感嘆のため息を漏らした。
大きなお世話だ・・・・俊哉は眼をそらし、唇を尖らせながら、朝食を食べている。
リビングに置いてある電話から、コール音が鳴った。
母親が小走りに電話に駆け寄り、電話を取った。
俊哉は、その様子を気に留めることもなく、朝食を食べている。
「俊哉、電話よ・・・・・」
母が、台所にやってきて、俊哉の耳元でささやいた。
「・・・・・大森さんから・・・・・」
母の声には、笑いが含まれていた。
俊哉は食べていたトーストを皿に投げ出し、弾かれたように椅子から立ち上がり、電話に急いだ。
母親は、その様子を見て、懸命に笑いをこらえている。
俊哉は、保留状態になっている電話を取り、ボタンを押した。
「もしもし?」
『もしもし、沢木君・・・・?』
受話器の向こうから、大森理恵の声が聞こえてきた。
昨日は、ありがとう・・・・・理恵の明るい声を聴いていると、俊哉の顔は、自然に笑顔になっていく。
『ところで、沢木君は、今日の予定は?』
理恵に尋ねられた俊哉は、
「予定表では・・・・・」
カレンダーに書いた予定を言うと、受話器の向こうから、理恵の悪戯っぽい声が聞こえてきた。
『・・・・・一人で、、大丈夫?』
ウグッ?!・・・・・俊哉は、答えに詰まった。
「それは・・・・・」
と、言ったきり、言葉が出ない。
電話の向こうで、理恵が笑っている。
『それなら、今日も図書館で一緒に勉強する?』
理恵の言葉を聞いた途端、
「うん、そうしよう!」
俊哉は大きな声で答えていた。
電話の向こうで、理恵が笑っている。
『それじゃあ、10時に図書館で・・・・・』
笑顔いっぱいで電話を切った俊哉は、台所の方を見た。
父親は新聞越しに、母親はヨーグルトの入ったカップを手に、俊哉を見ている。
二人は俊哉が見ていることに気が付くと、スッと視線を逸らし、視線を新聞に、そしてヨーグルトに戻した。
俊哉は真っ赤になりながら、階段を上がり、自分の部屋に戻った。



午前10時・・・・・時計の針が、怠けているのではないかと思うほど、時間が経つのが遅く感じることは、普段の生活ではなかなかないだろう。
しかし、沢木俊哉にとっては、今日は“時計が壊れたのではないか?”と思えるほど、時間が経つのは遅く感じたのだ。
自転車を飛ばしながら、街の公園に建てられているコンクリート造りの図書館に俊哉がやってきたのは、9時30分だった。
そう・・・・・落ち着かず、家でじっとしていられなかったのだ。
図書館には、理恵の姿どころか、人の姿も全くない。
時々、ジョギングをしている人や、犬の散歩をする人が通るだけだ。
俊哉は、図書館の入り口近くの木の下にある、木製のベンチに腰を下ろした。
「しまったな・・・・・」
開館時間まで30分近くある、時間をつぶすために、携帯ゲーム機でも持ってくるべきだった。
仕方なく、リュックの中から問題集を取り出し、問題を解き始めた・・・・・彼にとっては、本意ではなかったのだが・・・・・。
しばらくすると、彼よりも上級生・・・・・おそらくは、大学受験の高校生らしき人や、彼と同様に夏休みの宿題の調べものをするのであろう小学生の男の子が、親と一緒にやってきた。
それを横目で見ながら、俊哉は問題集と格闘していた。
その時、
「おはよう! 頑張っているわね」
彼の耳元で、可愛らしい声がした。
振り向くと、彼の顔のすぐ横に、理恵の可愛らしい顔があった。
「待ったかな?」
理恵が言うと、
「いや・・・・・僕も今、来たところだよ・・・・・」
俊哉は、あまりにも『お約束』の答えをしてしまっていた。
理恵がニッコリ笑った。
「沢木君、すごいね・・・・・まだ図書館が開いていないうちから、宿題をしているなんて」
理恵に褒められ、俊哉は背中がムズムズした。
『実は、ゲーム機を持ってくるのを忘れました』というわけにはいかない。
公園の時計の針が、10時を指した。
職員が、自動ドアを開けると、開館を待っていた人たちが、中に入っていく。
俊哉と理恵も、皆と一緒に図書館に入り、勉強を始めた。
机に問題集やプリントを置き、俊哉は勉強を始めた。
隣の椅子には理恵が座り、今日も高校受験のための問題集を、ひたすら解いている。
俊哉は、理恵に気づかれないように彼女を見た。
今日の彼女は白いTシャツと、デニム地のスカートを着ている。
そのTシャツの胸の部分を押し上げている膨らみ、スカートから延びる足の健康的な脚線美・・・・・そして、Tシャツ越しにうっすらと見える『女性だけが身につける下着』のラインを見ると、俊哉は彼女を意識しないわけにはいかない。
どのように意識をするかは、個人差があるだろうが・・・・・。
そんな妄想にとらわれている俊哉には構わず、理恵は勉強を進めている。
今日は、英語・数学・国語の3科目の問題集を持ってきているようだ。
机の上には時計をおいている。
昨日気が付いたが、時間を決めて勉強をしているようだ。
そうすることで、集中力を維持しているのだろう。
『僕だって・・・・・』
理恵の頑張りに刺激されて、俊哉は妄想を追い払い、宿題の山と格闘を始めた・・・・・理恵にとっては、それが狙いだったのだが・・・・・。



時計の針は、11時を指していた。
俊哉と理恵は、自動販売機でジュースを買って休憩をしていた。
「今日の沢木君は、頑張っているわね♪」
缶ジュースを飲んだ理恵が、沢木に向かって悪戯っぽい笑みを浮かべた。
その笑顔を見ていると、俊哉の胸はドキッとする。
「・・・・・わたしが来る前から、宿題を頑張っていたし・・・・・」
「大森さんだって、受験勉強・・・・・頑張ってたじゃないか」
僕なんて、宿題するのが精いっぱいなのに・・・・・俊哉は自嘲気味に笑った。
「それは、沢木君が・・・・・・」
理恵がクスッと笑った。悪戯っぽい目で、俊哉の眼を見ると、
「『僕は、これしかできないから・・・・・』な〜んて、自分で決めつけちゃっているからよ・・・・・」
そんなことないのにさ・・・・・理恵は再び缶ジュースに口を付けた。
「でもさ・・・・・」
「でも・・・・・じゃないの!」
理恵は、少し怒ったような口調で言った。
「沢木君は、出来るの・・・・・宿題なんて、本気になれば、すぐに終わらせることができるの! 受験勉強だって、頑張ればよい結果を出せるの! もっと自分を信じてよ!!」
理恵は一気に言うと、顔を俯けた・・・・・そして、
「信じているのに・・・・・沢木君自身が、自分のことを信じていないなんて・・・・・」
悲しそうに言った。
「僕は・・・・・大森さんとは違うからさ・・・・・」
頭は悪いし、運動はできないし、顔だってさ・・・・・。
「でも、わたしは女子よ・・・・・」
「完璧な女子だね・・・・・」
俊哉は笑った。
成績はトップ、スポーツ万能、そのうえ美人だし・・・・・俊哉は、飲み終えたジュースの缶を、ゴミ箱に投げ込んだ。
「そんな女子なら、なってみたいよね」
「そうかな?」
理恵は、小首を傾げて笑った。
そして、何かを思い出したように、
「そうだ、沢木君、今夜は予定がある?」
「いや、特にないけど・・・・・」
「今夜、河川敷の公園で花火大会があるでしょう? 一緒に行かない?」
俊哉の頭が、目まぐるしく回転している。
理恵と花火を見に行く? クラスの男子があこがれている女の子と・・・・・?
「・・・・・うん・・・・・行こう」
「よかった!」
理恵が明るく笑った。
「それじゃあ、もう少し頑張ろう!」
理恵がベンチから立ち上がった。
俊哉も立ち上がる。
二人は机に戻り、再び宿題、そして受験勉強を始めた。



太陽は西に傾き、美しい夕日が、西の空を赤く染めている。
そして、夕日に赤く染まった空が暗くなり始めたころ、提灯などで飾り付けられた河原に、浴衣を着たり、Tシャツ姿・・・・・様々な年代層の人たちが、思い思いの服装で、続々と集まってくる。
沢木俊哉は両親とともに、花火大会の会場にやってきた。
俊哉からすれば、一人で来たかったというのが本音だろう・・・・・しかし両親に、「みんなで花火を楽しもう」と言われれば、断るわけにはいかない。
川の土手の上から河原を見下ろすと、たくさんの屋台が並び、集まった人たちが店の前に列を作っている。
風船を手に、笑いながら歩く子供たち。
金魚すくいを楽しむ人たち。
歩いてくると、たこ焼きや焼きそばのソースの香りが、鼻をくすぐる。
俊哉は西の空を見た。
赤い夕日と、夜の近づいた夕焼けの赤から青・・・・・そして濃紺に変わっていく空が、美しいグラデーションを作り出している。
俊哉が空を見ていると、
「沢木君、おまたせ!」
振り返った俊哉が見たのは、紫陽花の柄が鮮やかに染め抜かれた浴衣に身を包んだ、大森理恵の姿だった。
綺麗だ・・・・・俊哉はそう思い、そして理恵の姿に心を奪われ、言葉が出なかった。
「こんばんは」
理恵は、俊哉の両親にも挨拶をしている。
俊哉の両親も、彼女に挨拶を返し、普段は無口な父が、
「しっかりとした、お嬢さんだね・・・・・うちの俊哉とは大違いだ・・・・・」
と、しきりに感心している。
俊哉の両親は、花火を見る場所を作るために、川の土手にビニールシートを敷いた。
俊哉と理恵は花火が始まるまで、屋台を見て回り、二人で金魚すくいをしたり、綿菓子を買って食べて楽しい時間を過ごした。
日が西に沈んだ空は、次第に夜の色に変わった。
そして、花火大会が始まった。
夜の空に、大輪の光の花が咲く度に、集まった人たちから歓声が沸き上がる。
大きな花のような・・・・・あるいは『光のしだれ桜』のような、光の花が次々に夜空に咲き、輝く色とりどりの光が、空を見上げる俊哉と理恵を照らし出す。
やがて、空に輝く花火を見上げる理恵の大きな瞳に、涙が溢れた。
理恵は、空を見上げたまま、
「沢木くん・・・・・?」
「なに?」
「わたし、今夜で帰らなければいけないの・・・・・」
俊哉は、理恵の横顔を見た。
理恵は空に輝く花火を見ながら、泣いていた。
「あの花火は、わたしたちを『送る』ための花火・・・・・わたしは、帰らなければいけないの・・・・・」
理恵は俊哉の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「・・・・・天国・・・・・へ・・・・・」
理恵は大きな瞳を涙でキラキラさせながら、笑おうとしているようだ。
俊哉は、理恵の言葉が理解出来ず、何も言うことが出来ない。
俊哉は両親に視線を向けた。
しかし、二人とも空で輝く花火を見上げ、俊哉たちの会話には気がついていないようだ。
「沢木くんには、もっと自分に自信を持ってほしいな・・・・・」
理恵は、可愛らしい微笑みを俊哉に向けた。
「沢木くんは、やればできるの・・・・・もっと自信を持って・・・・・」
理恵は、言葉に詰まった・・・・・彼女の大きな瞳から、大粒の涙が宝石のように輝きながら、零れ落ちている。
「・・・・・わたしは・・・・・そばにいられないけど・・・・・」
信じているから・・・・・理恵の柔らかい唇が、俊哉の唇に触れた。
周りからは、ひときわ大きな歓声が上がる。
夜空に、大輪の光の花が咲いた・・・・・その色とりどりの光の輝きが消えた時・・・・・俊哉の意識は遠のいていった・・・・・。



沢木俊哉は、気がついた時には、自分の部屋にいた。
しかし、その部屋は見慣れた自分の部屋とは、微妙に異なっている。
『男の部屋』という雰囲気が薄くなり、女の子の部屋のようになっている。
窓にはパステルカラーのカーテンが架かり、壁にはジ○ニーズのアイドルポスターが貼ってあり、本棚に女性コミックが並んでいる。
俊哉には、そんな趣味はない。
しかし今の俊哉は、この部屋の住人に相応しい姿をしている・・・・・そう、女の子になってしまったのだ。

両親によると、俊哉は花火大会の会場で、倒れてしまったらしい。
「貧血でも起こしたのだろう」
と、父は言っていた・・・・・。
「女の子には、よくあることだ」
と・・・・・そう、俊哉の父も母も、彼が産まれた時から『女の子だった』と思っている。
自分は男で、名前は俊哉だと言うと、母は呆れた顔で俊哉を見ると、アルバムを俊哉に手渡した。
そこには俊哉の『女の子としての15年』の思い出があった。
そして今、部屋に置かれた姿見には・・・・・夕方に部屋を出るまで無かったが・・・・・鮮やかな紫陽花柄の浴衣を着た、ショートカットの黒髪の女の子が映っている。
そう、理恵が着ていたものと同じだ。
しかし両親は、『家族で花火大会に行った』と言い、決定的な一言を俊哉に言った。
『大森さんは、亡くなったと言ってなかったか?』
そう、大森理恵は中学校3年生になって病気になり、6月に亡くなった・・・・・梅雨時だったこともあり、まるで空までが悲しんでいるかのような葬儀だった。
しかし俊哉には、彼女と一緒に4日間を過ごしたという記憶がある・・・・・中学校の先生、天野が理恵と彼の噂をして・・・・・?
俊哉の背中に一瞬、冷たいものが走った。
あの時には全く疑問に思わなかったが、彼の学校には『天野』という教師はいない・・・・・あの男は、一体誰なんだ・・・・・?
俊哉は、自分の机に歩みより、そして・・・・・泣き出してしまった。
唇を噛み、顔を上げ、涙で滲む視線を一点に向ける・・・・・その視線の先には、カレンダーが・・・・・そしてそこには、理恵と一緒に作った宿題の予定が書きこまれている。
俊哉は、泣き笑いの顔でカレンダーを見つめている。
そこには、理恵の字で書きこまれた予定もある・・・・・そう、彼女がこの部屋に、俊哉の前にいた証だ。
俊哉は泣いた・・・・・机に顔を伏せて泣き続けた。
どのくらいの時間が経ったかわからない・・・・・俊哉は浴衣を脱ぎ、Tシャツとショートパンツの部屋着に着替えると、机の前に座り、宿題を始めた。
プリントを、問題集を見ていると、理恵の笑顔が浮かんでくる。
シャープペンシルを握る『彼女』の手が、時々止まる。
昨日まで、『彼女』の手が止まるときは、勉強に集中していない時だった、しかし、今は違う・・・・・手が止まるとき、彼女の大きな瞳には、涙がたまり、唇を噛みしめていた。
その時、『彼女』の耳に理恵の声がよみがえった。
『沢木くんには、もっと自分に自身を持ってほしいな・・・・・』
『信じているから・・・・・』
そう、理恵は僕を信じてくれていた・・・・・クラスでも全く目立たない・・・・・これといって取り柄のない、この僕を・・・・・。
今、僕は女の子になった・・・・・・・そう、理恵のような女の子に・・・・・・信じてくれた彼女のためにも・・・・・俊哉の勉強に力が入る。
「・・・・・」
問題が思うように解けない・・・・・馬鹿な、僕は理恵のようになったはずなのに? このままでは、理恵に申し訳ない・・・・・俊哉は参考書を調べて、ヒントを見つけ、何とか問題を解いていく。

その夜、『彼女』の部屋には、遅くまで電気が灯っていた。



9月1日

クローゼットの前に、美少女が立っていた。
既に朝食は終えていた。
パジャマを脱ぎ、純白の半そでブラウスに袖を通し、胸元に棒タイを締めて、濃紺のプリーツスカートに足を通し、ファスナーを上げる。
ハイソックスを履履くと立ち上がり鏡を見る。
『中学校の制服を着た美少女』が、こちらを見ていた。
俊哉が微笑む・・・・・すると、鏡の中の美少女も、俊哉を見て微笑んだ。
俊哉は机の上の、スクールバックを手にした。
その中には、一昨日までに仕上げた夏休みの宿題が入っている。
そう、俊哉は理恵との約束を果たした、そしてその先には・・・・・『ボスキャラの受験が待っているのよ』・・・・・理恵の言葉が、頭によみがえる。
俊哉は玄関を出て、残暑の厳しい街を学校に向かって歩いていく。
初秋の風が、スカートを揺らす。
大丈夫だよ・・・・・俊哉は青空を見上げて呟いた・・・・・大丈夫、僕は君の期待に応えてみせる・・・・・・信じてくれた、君のためにも・・・・。



学校に向かって歩いていく俊哉の後姿を、スーツ姿の青年と、制服姿の美少女が見詰めている。
「よかったのですか・・・・・僕たちには彼の能力を上げる力もあったのですよ?」
天野成美は、傍らに立つ、大森理恵に向かって言った。
「大丈夫です・・・・・沢木君なら・・・・・」
理恵は、『彼女』の後姿を見ながら呟いた。
淡い光が二人を包んでいく。
光が収まった時、白く光り輝く服を纏った理恵と、青年が現れた。
「今回の件、神様には内緒ですよ・・・・・」
本当は、天に召された人は、下界の人間に会ってはいけないのですから・・・・・青年が、理恵の耳元で囁いた。
理恵が頷くと、二人の姿は光の中に消えていった。

白く長い髭を蓄えた老人が、光り輝く服を身に纏い、泉の水面に映る下界の様子を見つめていた。
老人は、満足そうに微笑むと、静かに泉から離れていった。




2014年の夏休み

(おわり)


作者の逃げ馬です。
感想掲示板に頂いた、At14さんの感想をもとに、『15歳』、『夏』、『お盆』という3つのテーマを決めて書いたのが、この作品です。
『8月16日』を書いているときには、自分の中でも迷いが出てしまい、書き上がったのがなんと、夏休みも終わりの頃になってしまいました。
作中の俊哉君を笑えない状況ですね(笑)

作中の『天野先生』、彼のサブキャラとしての登場は、この作品を書くと決めたときに真っ先に決まりました。
書き手としては、良い形で仕事をしてもらえたと思っています(^^)

今回も、最後までお付き合いいただきありがとうございました。
また、次回作でお会いしましょう。

なお、この作品に登場する団体・個人は、実在のものとは関係ありません。


2014年8月28日
逃げ馬





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