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学校の聖母シリーズ

学園祭



作:逃げ馬






「かわばた〜!」
教室を出ようとする僕に、後ろから悪友の長浜克己が声をかけた。
「なんだよ?」
「お前、明日は何か予定があるのか?」
顔を覗き込むように並んで廊下を歩く長浜に、
「ないけど・・・なんだよ?」
「明日、純愛女子の学園祭に行かないか?」
「明日? せっかくの休みなのに?!」
僕が嫌な顔をしているのを見て、長浜が笑った。
「あそこ、可愛い娘が多いからさ、行こうよ!!」
僕は、小さくため息をついた。

僕は川端孝彦。 剛気体育大学付属高校の三年生だ。
長浜とは幼稚園のころからの幼馴染だが、どちらかと言うとおとなしい(と、自分では思っている)僕とあっけらかんとした長浜は、周りからすると名コンビらしいが、僕はそんな長浜が苦手だった。

「もうすぐ受験だぞ・・・せっかくの休みはゆっくりしようよ」
「なに“おやじ”みたいなことを言っているんだよ・・・せっかくの休みだから出かけようぜ!」
「明日、家によるから・・・・」そう言うと、長浜は廊下を走って行ってしまった。
僕は、そんな奴の背中を見送りながら、大きなため息をついた。



翌日

「かわばた〜!」
玄関の前でから”いつもの声”が聞こえてきた。 玄関を開けると長浜が笑いながら立っていた。
「さあ、行こうぜ!!」
嬉しくてしかたがない・・・といった雰囲気で笑っている。
僕は渋々ながら、一緒に歩き出す。
長浜は一緒に歩きながら、「あそこの学校は制服が可愛い」とか、「あのクラブには可愛い子が多い」とか、延々と話し続けている。
周りに若い男女が増えてきた。 皆が同じ方向に歩いて行く。
やがて、前には立派な礼拝堂を持つ学校が見えてきた。女子の名門進学校、純愛女子学園だ。幼稚園から総合大学まで持つ大きな学校で、入学試験の競争率も厳しいそうだ。
校門の前では、子供を連れた参加者に、ブレザーの制服を着た女の子が色とりどりの風船を渡している。
突然、並んで歩いていた長浜が走り出した。驚いてみていると、風船を渡している女の子に駆け寄って、
「風船をもらえるかな?」
女の子が驚いて長浜を見つめている。 長浜は笑顔のまま女の子を見つめている。
女の子が「仕方がない」と言うように、長浜に風船を手渡した。満足そうに戻ってくる長浜を見ながら、
「かっこ悪い」
「あの娘、可愛いな!」
嬉しそうに笑う長浜。
一応は共学校のはずなのに、生徒は男子ばかり・・・そんな学校に3年間もいると、こうなってしまうのだろうか?
校門に入っていく僕たちを、女の子が戸惑いながら僕たちを見ている。
嬉しそうに笑っている長浜、僕は思わず「ごめんね」と言うように目礼をしていた。



そのころ
「痛い・・・」
体育館で女の子が細い足首を擦りながら顔をしかめている。
周りではチアのユニフォームを着た女の子たちが、心配そうに彼女を見つめている。
「アッコ・・・大丈夫?」
「大丈夫よ・・・これから本番だし」
彼女は立ちあがろうとしたが、
「痛い!!」
声を上げると同時に、崩れるように倒れた。咄嗟に、中年の婦人が彼女を抱きとめた。
「無理をしてはだめよ」
婦人が優しく窘めたが、
「でも・・・・小島先生!」
女の子が大きな瞳に涙を浮かべ、訴えるように小島先生を見つめている。
小島先生は、この純愛女子学園の高等部では家庭科を教えている。この学校では幼稚園から大学までを含めて一番の“古株”で、今年は“チアリーディング部”の顧問も務めている。
他の先生からすると、50歳を超えているであろう小島先生がチアリーディング部の顧問と言うことで「ミスマッチですね」と笑っていたが・・・。
「先生、アッコが出ることができなければ、今日の学園祭は・・・」
部員たちが泣きそうな顔で小島先生を見つめている。
しかし、小島先生は微笑みを浮かべながら言った。
「大丈夫よ・・・聖母様を信じて、みんなはしっかりと自分の演技をチェックしておきなさい」


「さすがは純愛…可愛い子が多いな」
長浜がにやけた顔をしながら、校舎の廊下を歩いている。
「お前、いやらしい目で周りを見るなよ!」
「そんなことをいって・・・うちの学校で、あんなに可愛い女の子を見れるか?」
長浜が口を尖らせながら言った。
「まあ・・・」
『うちには女子はいないだろ!』そう言おうとした時、
「ちょっと、あなた?!」
後ろから女性の声が聞こえた。振り返ると、スーツ姿の中年女性が厳しい表情でこちらを見ている。その後ろには、チアのユニフォームを着た女子生徒が二人立っている。
「君たち、剛気体育大付属高校の生徒ね?!」
『ほら・・・言わんこっちゃない』・・・そう長浜に言いたいところだった。
「そうですが?」
長浜が答えた。
「お前・・・今度はチアの女の子を・・・?」
・・・またいやらしい目で見ていたのか?・・・そう思うと、僕は思わずため息をついた。
「あなたじゃなくてね・・・」
中年の女性は、長浜にそう言うと、今度は僕の方を見た。
「エッ・・・僕ですか?」
・・・僕は何もしていませんが・・・そう言おうとしたが、
「私たちを助けてほしいのよ・・・」
「助ける?」
「そう・・・あなたならピッタリだわ」
中年の女性が微笑んだ。その微笑を見ると、僕は何も言えなくなり俯いてしまった。
「・・・僕に・・・・何を・・・?」
「来ればわかるわ・・・・」
3人が廊下を歩き始めた。
なぜだろう・・・僕は彼女たちと一緒に歩き始めていた。
その後ろから長浜もついて来ようとしていたが、
「あなたはホールの方へ行っていなさい・・・」
中年女性が厳しい視線を長浜に向けながら言った。
長浜の動きが止まる。すると・・・
「・・・・はい・・・」
あの図々しい長浜が、一礼をすると廊下を反対方向に歩いて行く。
「おい! 長浜!!」
僕が呼びかけても、長浜は振り返りもせずに歩いて行ってしまった。



「さあ、入りなさい」
中年の女性が立派な樫の扉を重々しく開けた。
扉が開くと、僕の前にはろうそくの明かりで礼拝堂が現れた。正面には大きな聖母像が置かれ、僕を見下ろしている。
「さあ・・・」
僕の後ろから、チアのユニフォームに身を包んだ女の子が促す。
しかし、僕は動かなかった。
いや・・・今思うと動けなかったのだ・・・そう、言いようのない“身の危険”を感じていたのかもしれない。
『ここに入ってはいけない・・・』
しかし・・・
僕の体は、なぜか僕の自由にはならなかった。
彼女たちに促されるまま礼拝堂の中・・・磨き上げられた木の床の上を聖母像に向かって歩き出していた。
ろうそくの明かりが、4人を照らしている。
「さあ、聖母さまに祈りましょう・・・」
中年の女性が言うと、床に跪いて両手を合わせた。
僕の後ろにいたチアのユニフォームを着た二人も従った。
僕は・・・突っ立ったままだった。
『ここを出よう・・・』
そう思うのだが、体は自由にならない。むしろ、
「さあ・・・あなたも・・・」
中年の女性に促されると、体は自分の意思に背いて、彼女たちと同じように床に膝をついて両手を合わせていた。
「さあ、祈りましょう」
4人が聖母像に祈り始めた・・・その時。

聖母像から眩い光が放たれた。

「?!」
一瞬目が眩み、聖母像から視線を反らした僕は、自分の体に異変を感じた。
上半身・・・着ているシャツの腹の辺りに,、柔らかいチューブのようなものがくっ付いていた。
「なんなんだよ?!」
僕はそれを引き離そうとしたが、いくら引っ張っても弾力のあるチューブはお腹から外れない。
僕はそのチューブの伸びる先に視線を向けた。チューブは聖母像のお腹に繋がっている。 横で聖母像に祈っている中年女性を見た。 彼女が微笑む。
「あなたも、聖母様の子になるの・・・」
「嫌だ!!」
僕は逃げようとした・・・いや・・・逃げようとする意思はあるのに、体はその場を動けなかった。すると、
「アアアッ・・・?」
チューブの中を何か暖かいものが、僕の体の中に流れ込んでくる。その暖かさがお腹から、僕の体の隅々まで広がっていく。
「なんだよ・・・こ・・れは・・・?」
搾り出すように出した声は、自分の声よりも高い・・・まるで・・・?
僕の周りで祈る声が大きくなった。
僕の目の前で、チューブを引き抜こうとしていた腕が、白く・・・そして指が細くしなやかに変わっていく。それだけではない、ジーンズのお尻のあたりが、まるではち切れそうに膨らみ、逆にベルトはブカブカニなってしまった。
「?!」
シャツの胸の辺りを”何かが”押し上げてくる。
「ヒエッ?!」
悲鳴を上げた唇は厚くなり、つややかな・・・まるで“少女”のような唇に変わっている。
「ぼ・・・僕はいったい・・・?!」
体を震わせながら、自分の体を抱きしめる。
体が一瞬、眩い光に包まれた。
華奢な体をカラフルな色使いのチアのユニフォームが包み、スカートからは白く健康的な足が伸びている。
「アアッ?! まさか?!!」
「そう、あなたは女の子になったの・・・これからは私たちと同じ、この学校の生徒よ」
いつの間に来たのか僕の周りに立っているチアの女の子たちが言った。
「エエッ?!」
慌てて立ち上がり、改めて自分の体を見下ろす。
鮮やかな色遣いのユニフォームを押し上げる豊かなバスト。
細く引き締まったウエスト。
ミニスカートから延びる白く健康的な足。
体を見るために頭を動かすたびに、ポニーテールにまとめた黒髪が首筋に当たる。
細く美しい手で自分の体を撫でまわす。 間違いない・・・自分の体だ。
「さあ、これから演技よ」
女の子たちが僕に向かって言った。
「何の?」
「チアに決まっているでしょう?」
『そんなの無理・・・』
そう言おうとしたのに、僕はなぜか微笑みながらうなずくと、彼女たちと一緒に小走りに体育館に向かって走って行った。



『では、これより純愛女子大学付属高校 チアリーディング部の演技をご覧いただきます』
アナウンスが終わると同時にスピーカーから軽快な音楽が流れ始める。
僕たちはリズムをとりながら舞台に出ていくと、ジャンプをしたりリフトを決めたり・・・そう、今までチアなんてまともに見たことも、ましてややったことなどないはずなのに、顔には微笑みをたたえながら勝手に体が動いて演技をしていた。
そう、椅子に座ってぼんやりと僕たちをみている長浜の顔がはっきり見えるほどの余裕があったんだ。
演技が終わり、舞台から下がると、
「すごいね!」
「よかったわよ!!」
皆が駆け寄ってきて声をかけてくれた。
中年の女性・・・小島先生が手を叩きながら微笑んでいた。 『大島先生? なぜ、わたしが先生の名前を・・・?』
「よかったわよ・・・“川端あかり”さん・・・」
そう・・・今思うと、あの一言が『最後の鍵』だったのだろう。
でも、わたしは褒められた嬉しさで、何の反論もせずに微笑みながらうなずいただけだった。

ロッカーでみんなと一緒に着替える。
ちょっと汗をかいたかな?
バッグからタオルを出すと、みんなと一緒にシャワーを浴びて汗を洗い流す。
白い肌の上を流れていくお湯の感覚が心地いい・・・前は、こんなことを思ったことなんてないのに・・・・なぜだろう?
「相変わらず、あかりはプロポーションがいいわね〜・・・羨ましいわ」
なんて言われ、思わず顔が赤くなる。
体を拭いて、新しいブラとショーツを身につけて、制服に袖を通す。
鏡を見ながら、リボンをきっちり身につける・・・わたしたちは、聖母さまの教えを学ぶ教え子だもの・・・身だしなみはきちんとしないと・・・。
そう思いながらも、心のどこかで、何か引っかかるんだなあ・・・?

皆と一緒にロッカーを出て廊下を歩く。
このあと何かを食べに行こうかとか、好きなタレントの話で盛り上がっていたのだけど・・・?
「あの〜・・・?」
体育館の外に立っていた男の子が、わたしに話しかけてきた。
がっしりとした体と、坊主頭・・・汗の臭いのする学校の制服・・・どこかで見たことのある気もするんだけど・・・?
「はい?」
わたしは小首をかしげながら男の子を見た。制服の襟についている学年章は3年生? わたしと同じね・・・。
「俺、剛気体育大学付属高校の長浜といいます」
「はい・・・」
『長浜・・・どこかで聞いたことのある名前ね・・・?』
「君は、舞台の上から俺のことをずっと見ていたよね・・・」
わたしは首をかしげた。
『そういえばそうかな・・・なぜ見ていたんだろう・・・思いだせないけど?』
「僕は、君みたいな娘がタイプだったんだ・・・・」
長浜が私に近づいてきた・・・そう、いつも私はこいつに振り回されていた気がする。今日だって・・・なんだろう、この感覚?
「君は僕の運命の?!」
「ちょっと待って?!!」
わたしは思わず悲鳴を上げた。 逃げようとするわたしの細い腕を、長浜が強い力でつかんだ。
「ちょっと?!」
「やめなさい!!」
わたしを“お姫様だっこ”をしようとする長浜を、チア部員たちが必死に止める。



礼拝堂の中では、小島先生が聖母像の前で祈りをささげていた。
外のにぎやかな声は、ここにも聞こえている・・・しかし、小島先生の耳には届かないようだ。
小島先生は瞳を開けると、聖母像を仰ぎ見た。
賑やかな生徒たちの声を、礼拝堂の聖母像は微笑みながら聴いているようだった・・・。





学校の聖母シリーズ

学園祭

(おわり)








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作者の逃げ馬です。
11月は、学園祭シーズン。
「学園祭ネタで一本書いてみよう」
そう思ってみると、「さて・・・学園物で使えるネタは・・・?」
キーボードを前に考えて、作者としては『困ったときの“聖母さま”』
またまた聖母さまの登場です。

『純愛女子学園』にだって学園祭はあります(笑)
しかし、まあ・・・この作品のような事が毎年起きると見に行く『男性』は、たまったものじゃないですよね(^^;
学校としては・・・生徒が増えて良いのかもしれませんが(笑)

今年も残りはひと月ほどになりました・・・2010年、せめてもう一本書きたいですね(^^)

それでは、今回も最後までお付き合いいただいてありがとうございました。





尚、この作品に登場する団体・個人は、実在のものとは一切関係のない事をお断りしておきます。




2010年11月  逃げ馬













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